去る9月12日(土)、青森市のアラスカ会館で、令和8年度の理論政策更新研修を開催しました。参加者は65名で、県内だけでなく、北海道、宮城、東京、神奈川、そしてわざわざ大阪から参加してくださった方もいらっしゃいました。

 研修終了後の懇親会には 11 名の方が参加してくださり、大いに盛り上がり交流を深めました。

 研修は3部構成で、以下の先生方に講演していただきました。

■1時限目「新しい中小企業政策について」 東北経済産業局 産業部 経営支援課長 秋元一考先生

 秋元先生は、平成7年に経済産業省に入省後、主に、中小・小規模事業者施策、エネルギー施策を担当されました。八戸市商工労働部商工政策課に出向されるなど、青森県にもゆかりをお持ちで、令和7年に経営支援課 課長に着任されました。

●第1章:現状維持はリスク! 「稼ぐ力」の強化へ

 現在の中小企業を取り巻く経営環境は、これまで以上に大きく変化していることを改めて認識しました。深刻な人手不足が続く労働供給制約社会に加え、インフレによるコスト上昇が進む中、従来と同じ経営を続ける「現状維持」そのものが大きなリスクになっています。 

 特に印象に残ったのは、持続的な賃上げを実現するためには、単純なコスト削減ではなく、付加価値を高め、「稼ぐ力」を強化する必要があるという点です。今後は、成長投資やAX (AIトランスフォーメーション)、経営リテラシーの向上などを通じて、事業構造そのものを見直していくことが重要であると感じました。

●第2章:適切な価格転嫁と成長投資で好循環を生む

 「稼ぐ力」を高めるためには、適切な価格転嫁と設備・人材への積極的な投資が不可欠であるとの説明は、企業支援の現場においても重要な視点です。

 これまで中小企業では、取引先との関係を重視するあまり、コスト上昇分を十分に価格へ反映できないケースも少なくありません。しかし、適正な価格転嫁によって収益を確保し、その利益を設備投資や人材投資、デジタル化などの成長投資に回すことで、企業の生産性を高める好循環を生み出すことができます。

 また、売上10億円や1億円を目指す成長志向企業への支援、生成AIや省力化機器の導入など、具体的な成長手段が示されたことも印象的でした。

●第3章:M&A・事業再編と伴走支援で強い企業をつくる

 経営者の高齢化と後継者不足が進む中、M&A や事業承継を活用して経営資源を有効に引き継ぎ、企業を活性化することの重要性を学びました。

 M&A は単なる企業の売買ではなく、経営資源を次の世代につなぎ、新たな成長を実現する手段でもあります。一方で、不適切な事業者を排除し、安心してM&Aに取り組める環境を整備することも重要です。

 また、生産性向上支援センターなどの支援機関による伴走支援を積極的に活用し、経営改革と持続的な賃上げを両立させることが、これからの中小企業には求められると感じました。

■2時限目「中小企業の伴走支援伴走支援の現場から ~実践を通じて考える経営支援の本質」佑貫堂コンサルティング(株) 代表取締役 藤澤哲平先生

 藤澤先生は青森銀行入行後、主に法人融資を担当され、2021年、Fコンサルティングオフィスを創業され、経営コンサルタントとして独立現在は認定経営革新等支援機関認定として佑貫堂コンサルティング株式会社の代表として青森、岩手、宮城で幅広くご活躍されています。

●第1章:計画策定はスタート! 「伴走支援」の本質

 「経営改善計画は策定して終わりではない」という点が強く印象に残りました。どれほど優れた計画を作成しても、それが実行されなければ企業の変革にはつながりません。企業の医者として改善策を提示するだけではなく、パーソナルトレーナーのように企業に寄り添い、経営者や従業員が自ら行動できるよう支援することが重要です。

 中小企業診断士には、計画を作成する能力だけではなく、その計画を実行し、成果につなげるための継続的な支援力が求められていると感じました。

●第2章:正しい提案でも動かない? 実行を分ける壁

 企業支援では、正しい分析や提案を行えば必ず企業が動くとは限りません。その背景には、経営者の認識や社内の思い込み、いわゆるバイアスが存在するからです。

 特に、問題の原因をすべて外部環境に求めている場合、どれほど精緻な提案をしても経営者には響きません。そこで重要となるのが、三現主義、すなわち「現場・現物・現実」に基づいて企業の実態を把握することです。

 経営者自身が自社の本質的な課題を認識し、危機感を持って改革に踏み出せるよう支援することが、診断士の重要な役割であると学びました。

●第3章:「誰が言うか」で決まる! 全社巻き込みの力

 企業経営においては、「何を言うか」だけではなく、「誰が言うか」が重要であるという点も大きな学びでした。特に親族経営や社内の人間関係が強い企業では、身内からの正論ほど反発を招く場合があります。

 そのような場面で、客観的な第三者である中小企業診断士が果たす役割は大きいです。経営陣だけでなく、計画策定の場に参加していない現場従業員の声にも耳を傾け、経営者と現場の橋渡しをすることが必要です。

 AIが急速に進歩する時代だからこそ、人に寄り添い、ともに考え、ともに汗をかく伴走力が、診断士の大きな価値になると感じました。

■3時限目「中小企業の新事業展開支援」 Neuut(株) 代表取締役 高森秀人先生

 高森先生は南部町ご出身で、今は東京で独立診断士としてご活躍されている一方、青森市内で、M&Aによりドライヘッドスパ専門店 「yumegocochi」(https://yumegocochi.com/hom)を経営されるなど、自ら中小企業経営を実践されています。

 高森先生は、アオ診の理事でもあり、アオ診のホームページ作成などシステム構築に多大なる貢献をしていただくなど、IT・システムのプロでもいらっしゃいます。

●第1章:なぜ今「スモール M&A」 による新事業展開なのか

 人口減少やコスト高騰が進む中、中小企業が従来の事業だけで成長を続けることは容易ではありません。そのため、後継者不在の解決や第二創業の手段として、スモール M&Aを活用した新事業展開が重要になっています。

 高森先生のお話から、診断士には事業計画書を作成するだけではなく、経営者が構造変化に対応し、新たな事業領域へ挑戦するための「実行支援者」としての役割が求められていることを実感しました。

●第2章:コンサルタントが当事者になって見えた現場のリアル

 サロン経営のM&Aを実際に経験した事例からは、机上の分析だけでは把握できない経営現場の難しさを学ぶことができました。

 財務分析や事業計画では見えにくいスタッフの不安や、事業所の移転による顧客離れなど、実際の現場ではさまざまな問題が発生します。理論やフレームワークは重要ですが、それだけでは企業を動かすことはできません。

 今年1・2月の豪雪では、一日の売上がゼロという日もあり、心が折れかけた、経営を断念しようと思ったこともあったといいます。日々発生する課題に向き合い、一つひとつ判断していく実践力が必要であると強く感じました。

●第3章:「計画作成」から「PMI 伴走パートナー」への進化

 M&Aや新事業展開において、最も重要なのは買収後の100日間、すなわち PMI (統合プロセス)をいかに進めるかであるという説明は、今後の診断士活動を考えるうえで非常に参考になりました。

M&A 後には、財務面だけでなく、スタッフの不安や組織文化、人間関係など、「ヒト」と「組織」に関する課題が顕在化します。そのため、診断士は「計画を作って終わり」という従来型の支援から脱却しなければなりません。

 現場に入り込み、スタッフに寄り添い、組織の安定と事業の成長に向けてともに汗をか<「PMI伴走パートナー」となることが、これからの中小企業診断士に求められる重要な役割であると感じました。

■まとめ

 今回の研修を通じて、これからの中小企業支援では、「計画策定」から「実行支援」へ、そして「伴走支援」へと診断士の役割を進化させていく必要があると強く感じました。企業を取り巻く環境が大きく変化する今だからこそ、経営者の最も身近な支援者として現場に入り、企業の変革と成長を最後まで支える姿勢を大切にしていきたいと思います。